円形脱毛症について

男性型脱毛症(AGA)について

浜松医科大学皮膚科学講座 伊藤泰介

円形脱毛症の症状

円形脱毛症には、単発型、多発型、全頭型、汎発型、蛇行型、逆蛇行型、急性びまん性全頭性 (ADTA: acute diffuse and total alopecia)、incognitaの8タイプがあります(図1)。さらにまれですが先天性という症例も報告されています。また眉毛やまつ毛、髭毛、体毛が脱毛する症例もあります。爪甲の陥凹や粗造化も生じます。

図1

円形脱毛症の合併症

アトピー疾患、精神疾患、自己免疫性甲状腺疾患、炎症性腸疾患、膠原病、I型糖尿病など自己免疫性疾患の合併が報告されています。

円形脱毛症のQOL(生活の質)

円形脱毛症に罹患すると、日常生活、学校生活、人間関係、社会生活など多様な面において支障をきたします。HADSやDLQIなどさまざまなQOL尺度を使用した研究で影響が出ていることが報告されており、また経済行動の低下、ウイッグや通院など支出が増えることから、経済的な損失があることも報告されています。

円形脱毛症の鑑別疾患

  • 斑状の脱毛斑を呈する以下の疾患:
    円板状エリテマトーデス、三角脱毛症、限局性強皮症(剣創状強皮症タイプ)、 毛包性ムチン沈着症、抜毛癖、先天性皮膚欠損症
  • びまん性に薄毛をきたす以下の疾患:
    先天性毛髪疾患(特にLIPH遺伝子変異などの先天性潜性乏毛症/先天性乏毛症・縮毛症)

円形脱毛症の診断のための検査

  • 抜毛試験、ダーモスコピー検査、病理検査、血液検査
    抜毛試験では、毛球部が萎縮したペンシルヘアが見られたり、休止期毛がみられたりします。ダーモスコピー検査では、急性期病変部位で感嘆符毛、黒点がみられ、慢性期には黄色点が観察されます。病理検査では、急性期には毛包周囲に著明な炎症細胞浸潤やメラノファージが観察され、一方、慢性期には浸潤細胞の度合いが低下し、休止期毛のような変化をきたします。

円形脱毛症の病態

円形脱毛症(AA)の病態は、毛包自己抗原に対する細胞傷害性T細胞の自己免疫反応が起きています。毛包周囲に発現するCXCL10に対する細胞走化性によってCXCR3陽性のTh1細胞、Tc1細胞が集簇します。これらのうちNKG2D+CD8+T細胞がeffector細胞と考えられ、毛包上皮に発現するMICAなどNKG2Dリガンドに結合します。CD8+T細胞が産生するIFN-は毛包上皮のIFN-受容体に結合すると、細胞内でJAK1-STAT1の活性化とシグナル伝達が行われ、MICA、MHC class I発現の亢進、IL-15産生が誘導されます。IL-15は細胞傷害性T細胞上のIL-15受容体に結合し、この細胞の維持、生存、活性化につながります。こうした免疫反応のトリガーとして、インフルエンザや新型コロナウイルスなどウイルス感染症があげられます。その他、紫外線や外傷などは表皮細胞の活性酸素の産生を促し、おなじく毛包への免疫反応を誘導する可能性があります。またストレスホルモンCRHによる肥満細胞の脱顆粒、皮膚表面のマイクロバイオームによる病態への影響など様々な因子との関わりが検討されています(図2、3)。

図2

図3

治療選択

AAの治療選択については、日本皮膚科学会より「円形脱毛症診療ガイドライン2024」が2024年10月に発表されています。ここでは推奨度1〜3にわけられています。推奨度1は、「強い推奨」であり、推奨された治療により得られる利益が大きく、かつ、それによる負担を上回るため行うよう勧めています。推奨度2は「弱い推奨」 であり、推奨された治療により得られる利益の大きさや有効性・安全性は不確実である、あるいは治療によって生じうる害や負担と拮抗しているものです。また推奨度3は「推奨しない」であり、判断の根拠となる情報の普遍性に乏しい、あるいは治療法が本邦の医療体制にそぐわないなどの理由から現時点では勧められていません。推奨度1は、ステロイド外用薬、ステロイド局所注射、経口 JAK 阻害薬または JAK3/TEC ファミリーキナーゼ選択的阻害薬、かつら です。治療選択は、年齢、病勢、脱毛範囲によって選択していきます。ガイドラインではAAキューブとしてわかりやすく示しています(図4、5)。

図4

図5

治療指針の概略

成人の場合、脱毛範囲が頭部面積の50%以下であれば、ステロイド外用薬、ステロイド局所注射、局所免疫療法(慢性期)が勧められます。一方、脱毛範囲が50% を超える場合、急性期ではステロイド全身投与であるが、慢性期には局所免疫療法やJAK阻害薬が選択肢となります。

  • 重症例への治療選択の基本:
    急性期 → ステロイド全身投与(内服、ハーフパルス療法)
    慢性期 → 局所免疫療法、JAK阻害薬

ステロイド局所注射

ステロイド局所注射はおおよそSALTスコア25以下の範囲の成人に適応します。トリアムシノロンアセトニド水性懸濁注射液の皮内用関節腔内用(10mg/ml)を生理食塩水で5mg/ml程度に希釈して総投与量10 mgを1回の処置量の限度の目安とします。注射針は30G程度の太さを使用し、できればロック式のシリンジが勧められます。痛み対策として、リドカイン・プロピトカイン配合クリームを皮内注射の1時間前に外用し、ラップなどで密封処置をすると麻酔効果が高まります。

局所免疫療法

1970年代に米国で始まった治療法です。慢性期の幅広い年齢層と脱毛範囲に使用できる治療法ですが、使用される物質が,Squaric acid dibutylester/3, 4-dibutoxy-3-cyclobutene-1, 2-dione (SADBE)、Diphenylcyclopropenone (DPCP)をアセトンで希釈するものであり、医薬品ではないため治療にあたって倫理的社会的側面への配慮が要求されます。また保険診療ではないことから診療費の取り扱いも施設ごとに異なります。繰り返し外用することによって皮膚免疫バランスがタイプ2バランスへシフトすることで治療効果を示すと理解されます。AAの約2割にアトピー性皮膚炎 (AD)が合併します。AD合併例に対しては同治療法を行うことでAD悪化の可能性もあることから、AD合併例に対しては慎重に行う必要があります。具体的な方法として、まずアセトン希釈による1% SADBE/DPCPを頭部脱毛班に感作を行います。10日後前後に感作が成立して外用部位に紅斑が出現します。感作成立2週間後程度から1x10-3 〜10-4%程度で惹起を行い、以後1〜4週間ごとに惹起を行います。適度な接触皮膚炎の誘発が改善につながります。副作用として重度の接触皮膚炎、接触皮膚炎症候群、リンパ節腫脹、頭痛、自家感作性皮膚炎、アトピー性皮膚炎の悪化などに留意する必要があります。

ステロイド内服療法

SALT25以上の重症例で急性に脱毛症状が進行している症例に、短期的な対応として適応します。連日のステロイド内服療法は治療期間が長期に渡り、減量によって再発をきたすことがおおく、中止しづらいことがあります。急性期に月に7日間、プレドニゾロン20mg/日内服など、間欠的に複数回内服する方法も選択されます。定期的に、脂質代謝、糖代謝の異常がないか、定期的な検査を要します。

ステロイド(ハーフ)パルス療法

急性びまん性に脱毛症状を呈し、ダーモスコピー観察で、感嘆符毛や切れ毛が多数観察される急性びまん性全頭性脱毛症に対してステロイド(ハーフ)パルス療法が適応されます。メチルプレドニゾロン500 mg/日の3 日間投与を行います。副作用として、頭痛、胃腸障害、倦怠感、生理不順、不眠、ざ瘡、血栓症などに注意します。なお、治療介入せずとも自然治癒する可能性(self-healing acute diffuse and total alopecia [sADTA])があり、女性であること、脱毛病変部に瘙痒・疼痛がないこと、頭髪以外に脱毛症状がないこと、抜毛テストで毛球部の萎縮がないこと、トリコスコピーで毛孔内が空であること、短軟毛が全頭で優位にみられること、の6項目のうち4項目以上を満たす場合には、sADTAである可能性が高く、ステロイドハーフパルス療法の導入をせずしばらく経過をみることも可能です。

JAK阻害薬

本邦では2022年にJAK1/2阻害薬であるバリシチニブ、2023年にJAK3/TECファミリーキナーゼ阻害薬が米国とともに世界に先駆けて承認されました。JAK1は細胞傷害性T細胞のIFN-受容体、IL-15受容体、毛包上皮のIFN-受容体に存在し、JAK1/2阻害薬であるバリシチニブはこれらの細胞内シグナル伝達であるJAK-STAT経路のリン酸化による活性化を阻害します。一方、JAK3/TEC (tyrosine kinase expressed in hepatocellular carcinoma)ファミリーキナーゼ阻害薬であるリトレシチニブは、IL-15受容体に結合するJAK3のリン酸化を阻害するのみならず、T細胞受容体の細胞質内のシグナルに関わるTECファミリーキナーゼのリン酸化を阻害します。いずれも有効性が高い治療薬ですが、内服開始前の事前検査、副作用発生の有無を確認するために定期的な血液検査や胸部レントゲン写真、胸部CTなどを行う必要があります。事前の検査項目として、感染症(肝炎ウイルス、梅毒、肺結核 [胸部レントゲン写真、、胸部CT、T-spot]など)、間質性肺炎(KL-6値、画像など)、血栓症などの確認(PT、APTT、D-dimer値)、悪性疾患の既往の有無、妊娠の有無、循環器疾患の有無などを確認します。また定期的(3ヶ月から半年に一度程度)な血液検査を要します。